■ 婦人科領域における鍼灸治療

  • 不妊症
    女性の社会進出と共に、晩婚化が進み、社会的ストレスも増加傾向にあります。そういった中で、子供を授かりたいが、なかなか授からないことに悩んでいらっしゃる方は多いようです。

    不妊症とは、避妊をしない状態で夫婦生活を送り、1年経っても妊娠が成立しない状態と言われています。しかし一言に不妊症と言っても、その成因は器質的なものから機能的なものまで様々です。一般に、鍼灸で適応となるのは、機能的不妊症です。器質的な不妊症であっても、治療の補助となる場合もあります。
    鍼灸治療をすると、ホルモン分泌が良くなります。ホルモンの分泌は、脳の視床下部という所がコントロールしています。

    視床下部から卵巣系に至るまでのホルモンの分泌異常は、卵の成熟や子宮内膜の厚さに影響してきます。

    卵胞ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモン(プロゲステロン)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)の分泌が主に治療対象となりますが、これらの性ホルモンの分泌を促す性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)も治療対象となる場合があります。

    月経期、卵胞期、排卵期、黄体期に合わせて、これらのホルモンの分泌状態は変わります。ですので、治療をする場合には、それぞれのタイミングに合わせた方針が大切になっていきます。

    以上の事から鍼灸治療で体調を整えることは結果として、高度生殖医療(体外受精(IVF)や人工授精(AIH)や顕微授精(ICSI))の成績を上げることに繋がります。

    卵の質を高めること、子宮の環境を良くすること(内膜の厚さと質)、ホルモンの分泌を整えること、以上が不妊治療における鍼灸の役割となります。


  • 更年期障害
    更年期はだいたい45~55歳くらいの間とされており、卵巣機能が衰退し始めてから消失するまでの時期となります。
    卵巣機能が衰退すると、卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少します。
    脳は、この卵胞ホルモンの分泌を促す為に卵胞刺激ホルモン(FSH)の量を増加させます。
    このように脳-卵巣系に顕著な変化が起こるため、種々の自律神経失調症が見られることがあります。
    また、取り巻いている社会的要因や心理的要因も自律神経症状を増強させると言われています。

    出現する症状には個人差がありますが、主に肩こりやのぼせ、ほてり、頭痛、うつ傾向などがあります。また、エストロゲンは血管、カルシウム代謝、糖代謝、脂質代謝などへの作用を通じて全身の健康管理に関わってきます。

    鍼灸治療は、体がホルモンの変化に順応できるよう調節することと、症状に応じた治療をしていくことになります。諸症状に対処することで大病を患うことの予防につながります。


  • 産後ケア
    妊娠・出産によってもたらされた母体の体の変化が、妊娠前の体の状態に戻る過程の中で、また育児のための母体変化の中で、様々なトラブルを起こしやすくなります。


    後陣痛…子宮体部が妊娠前の大きさまで戻る際に、強い子宮の筋肉の収縮が起こります。
    個人差はありますが、その時に感じる痛みを後陣痛と言います。
    子宮筋の収縮にはオキシトシンというホルモンが関係します。
    このオキシトシンというホルモンは、赤ちゃんが乳首を吸う刺激で、反射的に母乳を分泌する、という母体の「射乳反射」に関わるホルモンです。
    よって、授乳の際に強く感じることがあります。
    子宮が元の大きさに戻るのには、6~8週かかると言われていますが、後陣痛は分娩当日~翌日がピークで、人によっては3~4日まで続く方もいらっしゃいます。


    乳汁分泌
    …出産によって乳汁の分泌抑制が取れ、上述したオキシトシンの分泌が増加すると共に、乳頭の筋肉は弛み、乳腺を取り囲む筋肉は収縮して母乳を押し出します。
    しかし、時としてこの作用が上手くいかず、母乳が出にくい場合があります。
    またなかなか胸が張ってこないという方もいらっしゃいます。
    乳汁分泌しないとおっしゃった方で、乳房の周囲に軽く鍼をすると、体の生体反応が起こり、その場で乳汁が分泌したというケースもあります。

■ 症例報告

  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による排卵障害を経ての妊娠報告
    初診時29歳。不妊治療歴約1年。生理が2週間続いたり、ホルモン補充をしないと排卵しない状態で、薬でコントロールをしながら来院までにAIHを5回行うが全て陰性。
    鍼灸治療を開始して1・2周期目は卵胞の発育状況が不良のためAIH出来ず。
    3周期目くらいからはっきりとした高温期を実感。また、排卵前後のホルモン補充が軽量となる。
    翌周期妊娠判定陽性となるが、継続出来ず。しかし初めての陽性反応を経験したことは自信につながり、辛い治療へのモチベーションを上げた。
    その後自然妊娠。
    無事に第一子男児ご出産。

    二年後第二子希望で来院。
    鍼灸治療再開後、2周期目に自然妊娠。
    第二子男児を無事にご出産。


    【PCOSのため、薬でコントロールをしていても月経周期が不安定だったが、内診での状況をご説明いただいた上で患者様と話し合いをしながら鍼灸治療を進めてまいりました。】





  • 受精卵の分割が進まない方の妊娠報告
    初診時35歳。不妊治療歴1年。
    AIH5回、採卵4回、移植4回行う。
    採卵数27個のうち受精卵数半分くらい、さらに凍結可能卵は2つで他は分割スピードが遅くなったり停止してしまう時もあり。
    この間凍結できた受精卵は2個のみ。新鮮胚と凍結胚とで妊娠陽性がそれぞれ1回あるが、いずれも安定期を迎える前に妊娠継続に出来なかった。

    鍼灸治療を開始してもしばらくは採卵数に対して受精率は半分以下となり、培養して胚盤胞到達率は0に等しい状況が続く。

    治療開始から1年後にようやく13個の採卵から7個受精したうち1個桑実胚まで分割をし凍結する。
    その後は凍結は出来なくとも分割胚を何度か移植するも全て陰性。

    翌年病院を転院すると同時に鍼灸治療方針も変えてみる。
    採卵数23個のうち受精卵数16個、分割胚と胚盤胞合計3個を凍結。全て陰性。胚盤胞まで育ったことは良かったが、陽性にならず残念だった。
    その後採卵数30個、受精卵数23個、胚盤胞2個と分割胚4個を凍結。移植後一度陽性反応は出るが、継続ならず。
    その後採卵数16個、受精卵数11個で受精率はいつもより高いが、胚盤胞には到達せず。分割胚を2個凍結。陰性。
    さらにその後採卵数19個、受精卵数13個、この時も胚盤胞に到達しない分割胚2個を凍結し移植。めでたく陽性反応。一卵性双生児を現在妊娠継続中。

    【治療は3年に及び、少しづつ結果を出されていきました。仕事と治療の両立に加え、遠方の病院への受診はとても過酷だったと思います。鍼灸治療においても刺激量を増やす時期があり慎重に施術を行いましたが、頑張って通われました。】





  • 子宮筋腫と卵巣のう腫併発による月経痛
    初診時40歳。21歳頃から発症。
    ホルモン療法をするが薬を止めると反動で痛みがきつくなる。
    手術はしたくない。出産の予定はない。
    関東で自律神経免疫療法をして経過は良かったが、引っ越しのため通院不可能となる。
    生理3日目くらいから寝込んでいることが多い。
    右側に拳半分大のもの、左側にゴルフボール大のものが容易に触診できる状態。以上の状態で来院。
    自律神経を整えることでホルモン調節をしていきながら、鍼灸治療をしていく。

    治療間隔は週一回とする。治療開始は生理4日目。
    翌周期にはいつもより痛みが半減。この状態が治療開始から3周期目まで続く。
    4周期目からは更に痛みが軽減。8週期目である現在も治療継続中であるが、時々痛いという程度にまで軽減し、生理中も寝込むことなく家事をこなせている。

  • 生理不順
    初診時43歳。出産歴は16年前。
    二年前から急に生理が止まり、体重も増え始めた。
    ホルモン補充で生理を起こしている状態。自然に生理が来ることもある。
    生理不順以外の愁訴は、ダイエット、肩こり、冷え、下肢静脈瘤、便秘症状。

    ホルモンバランスを整えることと、代謝を上げるよう自律神経にも治療のポイントを置く。
    また、ダイエットの為、耳ツボ療法も加える。

    来院時生理27日目。以後33日目、38日目に来院されるが生理が来ていない。
    その後仕事の都合が合わなくて来院されていなかったが、その4ヶ月後来院。
    前回以後生理が自然に来るようになっているとのこと。再診はダイエット目的で来院された。